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2007年9月 6日 (木)

登場人物紹介(4) 吉備真備

Makibi_face

持統天皇九年(695)生まれ。戸主が最も信頼する元上司であり、生涯を通じてアドバイスをもらいにいく相手です。二十二才の時、第八次遣唐使の一員を任ぜられて唐に渡り、十八年間に渡って、長安の地で三史五経十三道(さんしごきようじゆうさんどう)を究めたといわれる大秀才です。わが国の陰陽道の祖とも言われ、かの安倍晴明の大先輩にあたるはずなのですが、「われ鬼神の類を信ぜず」を生涯のモットーにしたほどの合理的思考の持ち主です。どうなってるんすかね。

四十才で帰国後は、いわば洋行帰りの最先端知識を縦横に活用して、僧玄昉とともに宮廷で重用されます。後宮で戸主の上司となったのもこのころで、戸主は真備から仕事のイロハから奥義まで、すべてを吸収したと言ってもいいでしょう。
しかし、橘諸兄政権が翳りを見せはじめ、諸兄の政敵・藤原仲麻呂が台頭するようになると、宮廷での立場は一転して厳しいものとなり、国政の中枢からは遠ざけられてしまいます。ここでちょっと引用。


Makibi


「そうさ」真備は我が意を得たりと深くうなずく。
「そりゃ仲麻呂の政敵だった橘諸兄どのは、唐で新知識を修めたわしや玄昉を重用したさ。新しい知識は国政に役立ったからな。わしらもそのために十八年もかけて諸学を修めたんだ。だがわしや玄昉は、橘派に与して仲麻呂を排斥しようとしたこともなければ、太政官の末席にいたこともない。筋の通らぬことは大嫌いだから扱いにくい相手ではあったろうが、敵視せずともすんだのだ。だが仲麻呂にはわしや玄昉の人間が見えなかった。政争の駒として頭の中で動かしてみるほか、人間の別のありようを想像できないのだ。そのくせ、お得意の策だけは弄し、玄昉のやつは筑紫の観世音寺に左遷されたうえ奇怪なやり方で殺されてしまったし、わしは殺されこそしなかったが、ふたたび遣唐使に任じられるわ、太宰府に十二年もやられるわ、その間に娘は婚期を逃すわ……」
「関係ないじゃない!」顔を赤らめた由利が父親に食ってかかる。
「それはさんざんな始末だ。あの男にしてみれば、わしはもう歳だから、どうせそろそろ死ぬと思っているのだろう」

後には地方豪族出身者としては最高の右大臣の地位にまで上り詰める吉備真備ですが、その性格はおよそ政治家らしくなく、知性と誠実さを旨として長い宮廷人生を全うすることができました。しかし、ただの好々爺というわけではなく、身にかかる火の粉をはらい、国家安康をはかるためとあれば、ためらいなく大軍を指揮する、いわば清濁併せ呑んだ大人物であります。
その大人物が頭の上がらないたった一人の相手が、一人(?)娘の由利。しょっちゅうからかわれたり、怒られたりしては白い山羊髭を捻って困り果てた顔をしています。


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