登場人物紹介(10) 弓削道鏡
さて、この作品を書くにあたって、人物像の構築にこれほど悩み抜いた登場人物はいません。尊敬する故・黒岩重吾先生は『弓削道鏡』で、権力欲も性欲も人一倍のギラギラした野心家を、しかも肯定的に描いており、これはこれで好きな作品なのですが、どうも私の体質に合いませんし、屋上屋を重ねることもありません。
そこで、せっかくの「冥所図会」ですから、あっちの住人の力を借りて(名前は伏せます)、自分なりの道鏡像を描いてみました。古代に行って確かめることはできませんけれど、神託事件以降に伝えられている事跡とか、下野国分寺跡を取材したときの印象などからすると、案外こんなところだったのかも知れないな、と密かに思っております。
ラスト近くの、禁煙しおえて脂っ気が抜けてしまったオトーサンみたいな道鏡は、われながらちょっと笑ってしまいます。
ここで本文を引用。
「主上、ただいまより清麻呂の持ち帰った神託が真正のものか否かを、明らかにしてご覧にいれましょう」
「手荒なことはいやですよ」主上はぼんやりと疎ましげにいった。
「ご安心召されよ。わが法力にものをいわせるまで」道鏡はにやりと笑い、清麻呂一人を自分の正面に呼び寄せる。「私の顔を見るのじゃ。決して眼を逸らしてはならぬ」
そして手で込み入った印を結び、呪文を唱え始めた。印は、両の手のひらを合わせ、中の指三本だけを互い違いに組んで鳥の羽の形にしたものである。
「オン・マユラ・キランデイ・ソワカ……」
「なにが始まるのかしら」広虫が不安そうにつぶやく。
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