登場人物紹介(8) 孝謙天皇
なぜなら、男子の皇位継承者に恵まれなかったこの時代、主として藤原氏の思惑からですが、阿倍内親王と呼ばれていた少女時代には、正式に皇太子として立てられていたからで、後にも先にも女性の皇太子は彼女一人です。
吉備真備は春宮大夫(とうぐうたいふ)兼皇太子学士(こうたいしがくし)として皇太子時代から彼女に近侍し、帝王学を授けますが、内心では彼女の心の弱さにも気づいており、天皇になるよりも一人の女として幸せにしてやれたらなあと夢想しています。
女帝として夫を持てない定め(実は由利が喝破するように錯覚にすぎないのですが)と、強い男に頼りたいという本心、そして、なまじっかな男では才色兼備の自分には釣り合わないという強烈な自信とがないまぜになり、藤原仲麻呂や道鏡を巻き込んで天平の世を政治不安に陥れてしまう、不幸な星回りを演じてしまいました。
政治に倦み疲れ、狂恋の果てにぼろぼろになったような最晩年は、由利一人を近侍させ、すべての指示を由利を通じて台閣に伝えたそうですから、由利がいかに彼女に信頼されていたかがわかるというものです。
ちょっと本文を引用。
内裏で主上に拝謁した真備が目にしたのは、ひそかに恐れていた通りの光景だった。
主上は神託という朗報にすっかり有頂天になり、
「なんとすばらしいお告げを賜ったことじゃ。これもわれらが日頃から一途に仏道を尊び、人を救い導かんと願えばこそ。そうであろう、のう」
などと、呼びつけた役人たちの誰彼に問いかけの視線を向ける。主上の目は焦点が定まらずにふらふらと宙を泳ぎ、顔(かんばせ)は桃色に輝いて偽りの幸福感を周囲にふりまいていた。それは裸同然のひらひら衣装をつけて道鏡に手を引かれていたときとおなじ表情。いまは桃の木の真似事こそしていないが、心のうちはあのときよりもなお丸裸で、いならぶ役人たちの目にさらされている。
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